2019.03.27

セットバックって何? 土地の面積が減っちゃうの!?

不動産の資産価値が上がる!?その土地セットバックする?しない?

 

自宅の新築やアパートの建築用に土地を探していると、古い建物付きで安い土地が見つかることがあります。
その時は「やっと希望の土地が見つかった!」と思われるかもしれませんが、実はその土地、当初の面積より狭くなる、若しくは建物を建てられないかもしれません!

なぜなら元々、道路に2m以上接する土地でなければ建物を建てられないという決まりがありますが、それ以前に、その道路も一定の幅以上確保できていなければ、再建築が許されていないのです。

今回は、そんな土地の面積に関する「セットバック」というものについて解説します。
不動産用語としては意外と出くわすことの多い、実は非常に大事な知識でもありますので、ぜひ最後までお読みください。

実は身近にある「セットバック」とは?

不動産売買のチラシを見ていると、備考欄などに「セットバック有り」ですとか「前面2項道路」と書かれていることがあります。2項道路については次の章で解説しますが、この記事のポイントでもあるセットバックについてはしっかり覚えておくべき大事な用語です。
参考として、全日本不動産協会でセットバックの意味を解説しているページがありますので、引用してご紹介します。

〈セットバックとは〉

セットバックとは、土地に接する道路の幅員が4mに満たない時に、道路の中心から2m後退して建物を建築することをいいます。後退した部分は道路と見なされ、建物を建築することはできません。セットバックを要する土地については、その旨が表示されます。(以下、省略)

引用:公益社団法人 全日本不動産協会「5-2 不動産広告の見方(基本編)」

5-2 不動産広告の見方(基本編)

 

土地に建物を立てる時は、土地に接する道路は4m以上を確保するように法律で義務付けられていますので、幅の狭い道路に面した土地に建物を立てる場合、土地を後ろにズラさなければいけないのです。
ただ物理的に土地をズラすことなんてできるわけがありません。ではどうするかと言うと、所有する土地に面する道路が4mになるように、土地を狭くして建物を建てなければいけないのです。
実際に土地を後ろにズラしたわけではありませんが、土地を狭くした分、4mの道路を確保したことになるというわけです。
これが「セットバック」という言葉の意味するところです。

セットバックは義務?建築基準法の「2項道路」

セットバックについて理不尽に感じるかもしれませんが、これは火災が起きたときに消防車が入れるようにしたり、災害時の避難路の確保、日照の確保などが目的です。
よほどの事情がなければセットバックして道路の幅は確保すべきですし、ルールにも理解を示すのが懸命です。
とはいえ、やはり自分の土地が狭くなることに釈然としない方もいらっしゃるでしょう。
では、誰しも見たことがあるかもしれない以下のような道についてどう考えるべきでしょうか。

・地主さんの土地の脇にある砂利の道

・近道で使っている民家の間にある細い道

・人しか通れないように柵が設置された道

道は道だけど「道路」とは言えなさそうですから、上記の道に面した土地なら、面積を狭くしてまでセットバックしなくてもよさそうです。
ただ、建築基準法では「道路の定義」が定められており、もし上記の道が建築基準法の「道路」に該当する場合、セットバックが必要になる可能性がグッと上がります。
では、建築基準法上の道路の定義を見てみましょう。

〈建築基準法42条による道路の定義〉

「道路」とは、次の各号のいずれかに該当する幅員4m以上のものをいう。

1項:道路法上の道路や土地開発などで作った道路、その他私道など、いわゆる4m以上の一般的な道
2項:建築基準法の適用や都市計画区域として指定される前からあった特定行政庁が指定した4m未満の道
3項:その土地の状況から特定行政庁がやむを得ず道路として見なす2.7~4mの道
4項:道の幅を6m以上と指定される区域内で、特定行政庁が安全上等で問題ないと判断した6m未満の道
5項:道の幅を6m以上と指定される区域内で、6m以上と指定される前からあった4m未満の道
6項:道の幅が1.8m未満で特定行政庁が建築審査会の同意を得て指定する道

「特定行政庁」というのは建築基準法で特有の言葉ですので、都道府県や市区町村といった自治体をイメージしていただければ問題ありません。
また3項以降は、京都などの歴史的な建物が多い街や周辺環境の状況から特別な指定が必要な特殊ケースなどですので、あまり深く考えなくても良いでしょう。

 

問題は2項で定められた道路です。

建築基準法上では「4m以上」を道路として定義していますが、2項にあるように、特定行政庁が指定した道であれば、4m未満でも道路と見なすとされています。
この法律を適用することから、幅が4m未満の道のことを一般的に「2項道路」「みなし道路」と呼びます。
よって、所有する土地に面する道が2項道路に指定されていた場合、土地に接する道路の幅は4m以上にしなければいけません。
ただ一般的には、既にその土地に建物がある場合はわざわざセットバックを行う必要はなく、新たに建物を建てる場合にセットバックの義務があるという決まりになっています。
つまり、これから土地を購入する方はセットバックの確認が重要であり、道の幅が4mあるか怪しい場合は、2項道路かどうか確認しないと取引後のトラブルの元になるため注意が必要です。

こんな時どうする?セットバックが必要な物件に関する事例

さて、2章の最後に「新たに建物を建てる場合にセットバックが必要」とお伝えしましたが、セットバックが絡む場合は建物以外のことでも注意の必要なケースがあります。
人の住まいに関することとなると、何かと判断の難しいケースが発生するのは法律関連の話でよくあることですが、具体的なケースというのを3つご紹介します。

・セットバックしてない中古物件を購入したがブロック塀だけ新しくしたい

セットバックが必要となります。
建築基準法上の「建築物」の定義には、その土地の建物だけでなく建物に附属する塀なども含まれますので、建物の建て替えと同等に扱われることとなり、セットバックが必要となります。

・土地いっぱいに家を建てたところ、セットバックした部分の上に屋根が飛び出してしまった

状況にもよりますが、セットバック後に建てた建物の屋根が道路側にはみ出すような場合、セットバックの問題以前に建築基準法の「道路内の建築制限」に違反することになるため、行政の指導や命令により直さなければいけない可能性があります。

・自宅の1階で美容院を開業したが、セットバック部分に看板を置いたりお客様の駐輪を許可している

自治体の判断により撤去を命じられる可能性はありますが、実は明確な規定がないことも多くあります。
明らかに通行の邪魔になるようであれば、近所との付き合いも考えて撤去するのが望ましいかもしれませんが、実際にはセットバック部分にプランターを置いたり、簡易物置などを設置しているケースもあります。

狭くなった土地…。資産価値への影響は?

さて、ここまでセットバックについて解説させていただきました。
3章の最後の事例でお気付きになった方もいらっしゃるかもしれませんが、実はセットバックの制度については「ザル法」という不名誉なあだ名が付けられている事実もあります。
つまり、法律上はセットバックの義務が課せられていても、セットバック後のその土地の扱いや利用制限などについて曖昧な部分が多く、自治体の判断次第というところがあるのです。
そのため「土地の価値が落ちるから自分の土地を狭くしたくない」「塀を撤去する費用を出したくない」といった理由で、なかなかセットバックが進まない地域もあります。
ただセットバックは、逆に資産価値を上げる可能性を秘めた制度でもあります。もし自分が、価格も面積も同じ以下2つの土地のうち、どちらか一つを買わなければいけないとしたら、どちらを買おうと思うでしょうか。

A.見通しが悪く、緊急車両も通ることができない細い道に面した土地

B.車の往来にも十分な幅があるため、見通しも良い道に面した土地

普通に考えたら、誰しもBを買おうと思うはずです。
上記2つをセットバックありきで考えると、不思議なことに、ここまで解説した「セットバックは土地面積が狭くなる」というネガティヴなイメージから一転して、セットバックして道を広くしたほうがその土地の価値が上がるような気がしてきますね?
1章で解説したとおり、セットバックすることで地震や火災などの災害から逃げる道を確保し、救急車や消防車が入れるようになります。
また、道幅が広くなれば見通しが良くなって防犯上の安心が得られ、日当たりも良くなるというメリットも享受できます。

土地面積が減ることは損かもしれませんが、将来的に町並みが整うことから、セットバックは土地の資産価値を向上させるのに寄与することになるのです。
これは可能性の話ではなく、不動産鑑定士の土地評価でも大事な評価ポイントになっていることですので、セットバックを一括して面積が減るネガティヴな方にばかりに考えるのではなく、長い目で見て合理的に判断することが良い土地選びと言えますね!